職人の技 オリーブ 中井さん

農薬と肥料を一切使わない。人間と自然のチカラで作るからプレミアム

丸亀城の近くで生まれ育ったという中井さん。生活の中にお城や丸亀うちわがあった。
地元丸亀を盛り上げていきたい思いを込め、香川県丸亀産100%のエキストラバージンオリーブオイルを生産販売している。
オリーブオイルだけでなく、自然栽培だからこそ商品化が可能になったオリーブの葉のお茶や、料理に使うオリーブ茶葉の粉末も人気だという。
「丸亀オリーブ」という新ブランドを作って、香川の丸亀から全国に発信していきたいと夢を語る。

【取材2021年2月】

オリーブ
中井さんが手にしているのが「オリーブ葉乃粉」。お菓子・パン作りや唐揚げ・天ぷらの衣の色付けなど使い道は豊富。

-オリーブのお茶は知りませんでした。

オリーブの葉を食品に使用できる栽培業者は、オリーブ栽培の盛んな香川県でもごく少数に限られてます。
下草を絶対生やさないというのが、オリーブの栽培で確立したものなんですけど、日本は湿度が高いので、除草剤や防虫のために農薬を使用しないと、それが不可能に近いと言われてます。実を取ることを目的にする場合は、どうしても農薬を使わざるをえません。一般的な栽培業者は、実の収穫の1ヶ月前に農薬を切ることで、安全な基準を満たし出荷します。
そのような従来のやり方だと、農薬が残っていない安全な葉は収穫できないんです。
香川県が定めた回数以内でのみ農薬を使用する、低農薬栽培の業者で3社のみ。全く農薬を使用していない業者はうちだけですね。

オリーブオリーブ
オリーブの葉を遠赤外線で24時間乾燥。あっさりとした風味でとても飲みやすい。

-無農薬は相当難しいのですね。

無農薬というだけで、同業者さんにはさんざん言われましたけどね(笑)不可能だと。
実際ハードルが高くて、枯れてくる木もありました。立ってるだけで枯れてきたり。
うちは施肥もしないんです。化学肥料だけでなく牛糞や鶏糞も一切使用しません。肥料を入れると窒素過多になって虫がわくので。
本当に無農薬で作ろうと思ったら、たい肥は自然に任せます。 木を植える前に、土を育てるため菌床を利用します。微生物を育てて、畑にすき込んでから木を移植します。 菌で土を肥やすやり方ですね。炭素循環農法といいます。
肥料不足だと美味しいオリーブオイルはできないと言われてましたけど、令和2年度産は酸度0.13%と、香川県産オリーブオイル品質評価基準のプレミアムに相当する数値を取得することができました。
小豆島のオリーブ研究所で行われている官能評価試験というテイスティングでも、一番上のクラスでした。
無農薬だから美味しくないのは仕方ない、とは絶対にしたくなかった。

オリーブ
昨年11月に収穫した実を搾ったエキストラバージンオリーブオイルは、予約のみで12月に完売。
丸亀市ふるさと納税の返礼品分だけしか残ってないそう。

-安心安全かつ美味しいオリーブオイルなんですね。

収穫してから瓶詰めするまで時間をかけないことが、美味しいオリーブオイルを作る上でとにかく重要です。
私は以前オリーブの会社に勤めていたので、そこが重要なのは知ってましたが、瓶詰めの日は徹夜ですよ(笑)
ろ過と瓶詰めがものすごく大事。 収穫した実を朝一で搾って、急いで持って帰ってすぐ搾油、ろ紙でろ過します。 酸素に触れないように、光に当たらないように、できるだけ最短でやります。

オリーブ
ろ過したオリーブオイル

-キレイな黄緑色ですね。

ろ紙で丁寧にろ過するとキレイな色合いになります。

オリーブオイルは収穫時期によって色が違います。
日本では病気を避けるためになるべく実が緑色のうちに早め早めに収穫するのが一般的ですが、私は熟(う)れるのを待って色がついた状態で収穫し搾ります。
熟れる前に収穫したオリーブオイルは青色が強い。苦みやえぐ味が強い。 だんだん色が黄色くなってくるとまろやかでフルーティさも出てきます。
私は少し熟した方が日本人の口に合うように思います。
味見してみますか?

オリーブ
サラッとした食感で最後にほんの少しピリッとのどに感じた。

-収穫はいつ頃ですか。

昨年は11月の頭に収穫しました。収穫量は110kgでオイルが14リットル取れました。
やはり無農薬だと収穫量は落ちますね。1本あたりの実の採れる量が少なくなります。

オリーブオリーブ
収穫時期によってオリーブオイルの色や味が違う。

-木は400本あるとお聞きしてます。

そうです。栽培初めて今年で9年目になるのですが、最初は30本。毎年少しずつ増やしていきました。
元は主人が稲作をやってましたので、その土地の一部をオリーブ畑に変えてスタートしました。

オリーブ
綾川町にあるオリーブ畑。

-年間の作業工程はどんな感じですか。

10月にオリーブ茶用の葉を収穫します。上の方の若い枝から出ているエネルギーが豊富な葉を取ります。
11月に実を収穫し、12月に出荷します。搾油は1日で終わるので、翌日には出荷できる商品ができていますが、検査に1ヶ月かかります。
そのあと飼料用の葉を取ります。これはオリーブハマチの飼料用です。3月末まで続きます。枝の剪定作業をしながらですね。
春から夏は草刈り。虫取り。全部手作業です。ゾウムシをピンセットで取ってますよ。
今ちょうど新芽が出てきていて、花が6月くらいに咲きます。オリーブって同じ品種だけを植えていると実がつきにくいんです。ミッション、ルッカ、ネバディロ・ブランコ、違う品種を植えてます。
無農薬が故に、手間はかかりますね、1年中。

オリーブ
飼料用の葉は乾燥機に入れて熱風で一気に乾燥する。
抗菌・抗酸化作用を持つとされるオレウロペインが多く含まれている。

オリーブ
今は新芽の季節。実の新芽か葉の新芽か、もう決まっている。

-他に大変なことは。

強風が怖いです。無農薬で育ててても、周りの畑から農薬が飛んでくる可能性があります。
うちが無農薬でやってることは周りの農家も知ってるので、強風の時は農薬散布しないよう気を遣ってくれてます。 まだ農薬が検出されたことはありませんが、もし出たらその年は販売中止にしますね。

お茶を商品化するのも、何年もかかりました。
お茶の葉の検査もやってますが、どこに提出しなければいけないという義務ではなく、自分が安心、納得するためにやってます。 無農薬という商品表示はできないので、結局自己満足ですね。
(※日本の法律では農産物を販売するために、無農薬とパッケージに表示したり商品説明に使用したりすることは禁止されている。)

オリーブ
オリーブの木は風にも弱い。特に若木は主幹が細いので倒れやすい。風対策で剪定と支柱のやりかえが不可欠。

-今後やりたいことはありますか。

丸亀で畑を増やしたいです。目標は2町(約20,000m²)、本数でいうと2千本。間隔を広げた方が自然栽培は特に病気になりにくいので、贅沢にゆったり育てようかと。それだけ草刈る面積が増えてが大変になりますけど(笑)
3月から丸亀市の自宅近くの畑で120本植える予定です。その畑の一部は茶園仕立てにしてみようかなと。実ではなく葉を収穫する為だけの計画を練ってます。
商品も新しいアイデアが何個かあります。オリーブで捨てるところがないところまでいきたいと思ってます。
欲を言えばアンテナショップも欲しい。無農薬ばかり扱っているお店があればいいですね。
「丸亀オリーブ」という新ブランドを作って、香川の丸亀から全国に発信していきたいです。

オリーブ
丸亀うちわ職人の三谷さんと意気投合してできたコラボ商品。
オリーブの葉で染色、オリーブの枝を持ち手に使うことで一本一本違った味がある。

オリーブ
丸亀市綾歌町栗熊にあるNakai農園の会社前で。

オリーブ
8月のオリーブ農園

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