丸亀が生んだ画家 猪熊弦一郎

作風の違いを楽しめる画家

画伯の絵の魅力は、卓越した描写力と斬新な構図、鮮やかな色使いと言われる。絵1枚1枚をじっくり楽しむことはもちろんだが、晩年まで描きつづけた作風の違いを見ていくのもおもしろい。

作風によって、猪熊の画業は大きく6つの時代に分けられる。

東京美術学校、帝展時代/主に人物像を描く。見たままを描く写実的な描写から、形や色を変化させたメリハリのある表現へと徐々に変わっていく。

パリ時代/1938年渡仏、パリにアトリエを構え2年間滞在する。現地で多くの実作を見る機会を得、様々な描き方を模索する。アンリ・マティスに師事。

戦後/第二次世界大戦後の10年間は東京で活動。猫を四角く角ばらせたり、人の顔を単純な丸で囲んだり、実物とは全く違った姿で描き、形や色の効果を追求する。

ニューヨーク時代/1955年渡米、ニューヨークにアトリエを構え20年間滞在する。具象の面影は消え、都市をテーマに直線と円を多用した幾何学的な絵を多く描く。

東京―ハワイ/1975年東京に戻り、冬の間はハワイで制作するようになる。ハワイの陽光の中で色彩が明るくなり、宇宙をテーマに有機的な形が浮遊する絵を多く描く。

角と丸BX
角と丸BX(1977年)
体操と水
体操と水(1987年)

顔・鳥/1988年妻に先立たれたことを機に、顔をいくつも並べた絵を描く。やがてそこに鳥や動物、幾何学的な図形など、具象・抽象の区別なく様々な形が加わるようになる。

顔10(B)
顔10(B)(1989年)
風車と鳥
風車と鳥(1993年)

フランスでアンリ・マチスに「お前の絵はうますぎる」と言われたことは、「人生最大の教訓」と語っており、画伯にとって衝撃だったという。うまく見せようとする絵ではいけない、思ったことを素直な心で描くんだと。

こうしたきっかけや年代、環境によるのか、晩年までの作品を追ってみると、描写がどんどん変わっていっている。古典的写実から始まり抽象に至り、幾何学的なものや都市をテーマにしたメカニックな表現、飼っていた猫や動物の絵。モダンなものもあれば、かわいらしいものもある。絵から想像できる画伯の人生、奥深い。

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